『時をかける少女』 谷口正晃

時をかける少女 【完全生産限定版】 [DVD]

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新文芸座にて、中島哲也『告白』と観る。どちらも青春映画というジャンルに単に括られはするが、交わることのない全く違う青春映画である。それは何故か。本作の冒頭、仲里依紗(あかり)は走っている。かけている。その理由はとるに足らないのだが、非常に爽快だ。仲の走るという運動、オーバーな身振り手振り、表情が強く印象に残る。仲は言葉よりも身体が先に出てしまう。そうした言葉足らずが災いして彼女に最後悲劇が待っているとはいえ全身で発する力には圧倒される。仲里依紗がとにかく素晴らしい。だが『告白』はどうだろうか。いつもの中島のデコレーションされた過剰さは影を潜め、抑制のきいた画作りがされている。高速度撮影の多用で見落としてしまうような危険な美しさを何度も執拗に捉えてはいるが、彼は中学生たちに24コマの当たり前の運動を封じている。全てがスローモーションに引き伸ばされて、爽快感などない。彼らはかけるのではなく、ただ浮遊している。運動を禁止された彼らには「告白」の権利が、つまり仲に足りなかった言葉が与えられている。しかし言葉はまたしても悲劇を回避することは出来ず、むしろ松たか子、大人にのみ持つことを許された武器ではなかったか。運動と言葉どちらが世界を変えるのか。『時をかける少女』のラスト、感動的な一本のフィルム(24コマの運動)、それが『告白』になかったものだと思う。